月初のご挨拶
第147号
2024年11月1日
谷川 亘
狂い咲き
マツッ 待ってよ!!!
これぞホンマの“狂い咲き”・・・。
早朝ラジヲ体操。老若男女、ひょっとしてオジン・オバン相揃っての雑談同士の指定席。背中かがめての“よた歩き“なのだから数歩先しか及ばない視界なのに、仲間が指指さすのは目線をはるかに上回る桜の小枝。ソメイヨシノの大木に、控えめに花開くほんの数輪。私に言わせればこれぞ言い得て妙。“狂い咲き”とは正しく“奇跡”とも言うべき珍現象の大発見なのですよ。
とにかく驚異の光景。まさか、こんな時期に開花するなんて!!!
意味もなく興奮し、何故か焦って、震える指先堪えつつ、スマホ写真を構える。
実はHomepage10月号締め切り間際の9月29日に撮った武蔵関公園の“狂い咲き桜の”写真を、興奮覚めやらず再度本号にも載せてしまったとでも思召せ。
と言いますのも、紅葉の時節に“桜の狂い咲き”如き、的外れの話題を取り上げる、時節もわきまえぬ不束者。なんて言われてしまいそうですが、公園の数多ある桜木の中に狂い咲いたのは他には一本しかないとのこと。行き帰りに歩く西武線の石神井川沿いの桜にも、ざっと探したところでは時違えて咲く桜花なんてありはしない。
ところが、所がなんですよ!!!
我家の燐家との塀際にある幹回り1.4mで樹暦30数年の中年でっぷり桜。建て替え時に古木となったヤマザクラを引き継いで植え替えたソメイヨシノ。猫の額なんてものではない。狭い庭に植えられた腹いせかどうかは分からぬが反骨精神旺盛で、樹勢に任せて延びるやはびこるや。春には2階のベランダ越しに花見を堪能し、夏は適切な緑陰をお恵み頂いてビールで乾杯。
なんと、その枝先にたった数輪、“狂い咲き”があるではないか?目を疑ったが間違いない。しかも公園の代物は枯れ切った葉先に遠慮がちにほころんでいるのに、我家のそれはまだまだ枯れるなんてこともなく、青葉旺盛の塊の中からぽつんと枝伸ばして自己の存在を誇らかす。「良くぞやったなぁ・・・」
奇跡の開花2題。でも、何故か気掛かりで致し方ない。
真夏日が当たり前になり、地球温暖化、昨今では温室効果ガスの排出量の増加は凄まじいものがあり、線状降水帯なんて新たな気象用語、珍現象が続出して大雨・土砂災害の続出ありと思えば、酷暑・残暑の大判振る舞い。
これじゃぁ“狂い咲いても”致し方なし!!悪さしたのは勘違いさせた人さまが張本人。誤認識させられたのは“狂い咲きさせられた”桜の方なのでした。
でも、ちょっと興ざめしてしまったのですが、「物の本」によれば、我の見た2例の季節外れの桜の開花ごときは、注力して見回せば、全く珍現象ではないことが理解できたところです。
桜は翌年春まで花が咲いてしまわないように“休眠ホルモン”と言う物質を出して花の時期を制御しているのだそうですが、葉を虫に食われたり、あるいは台風などに遭遇して失ってしまうと、休眠ホルモンの供給が途絶えて制御不能となって、“狂い咲き”。別名“返り咲き”とも呼ぶのだそうですが、そんなに稀有な現象ではないとのことでした。
もっと学術的呼称としては、気象庁では季節外れに桜の花が咲くことを「不時(フジ)現象」と呼んでいるそうで、他にも、涼しい天気が続いた後に急に春のような暖かい日が続くと「不時現象」が発生することもあるのだそうです。
珍現象を見つけたぞツッ。と、歓喜の声を発して書き出したものの、いささか尻切れトンボ。
でも、今なお育ち盛りの中年太りで意気盛ん。春の訪れとともに開花する我が家の桜は我が人生と共に歩調合せ生きながらえてきた相棒のような存在。
「西茨城から陽が昇る」との合言葉で建設した工場のある桜川市。三町合併で市に昇格した記念に、手持で持ち帰った金木犀も“狂い咲き”の桜の隣で大きく育ち、背丈数倍にもなってこの季節に芳香を放つ。果てまた、前の住民の方が育てられた、紫と白の2色が同時に花開く藤棚も我家の三羽烏の花群たち。
主は、臭覚衰えて金木犀や藤花の馨しさもほどほどに・・・。老境入りして致し方ないのですが、花群たちは元気旺盛の伸び盛り。
後世にありったけを託すのが人の定め。これでよいのだ・・・。